ぐろぶのらくさ

誰かに構って欲しい,という欲は薄れつつある今日この頃。

Mr.Childrenの次の扉

Mr.Children DOME&STUDIUM TOUR 2017 Thanksgiving 25』のネタバレを含みます

 

 

 

 

 今回のツアーに参戦して,一番聴けてよかったと思った曲,それは「車の中でかくれてキスをしよう」である。

 ただレアだからとか,今後やりそうにないから,とかそういう理由ではなく,「ホールツアーを経て彼らが得たもの」を垣間見ることができて,心が震えたから。

 桜井和寿は,ホールツアーを回っている頃に何かのインタビューで「表現者」という言葉を口にしていた。それが「表現者だから」か「表現者でありたい」かどちらのニュアンスだったかは曖昧なのだが,ああ,Mr.Childrenも次の扉を開けようとしているのだな。と思った記憶がある。体力勝負の大きなハコでのライブは,いつまでやれるかわからない。感情をむき出しにしたシャウトも,いつまでできるかわからない。決して口には出さないが,47歳になった彼らに対して,そういう思いを抱くファンは少なくなかったのではないだろうか。

 

「わたしたちは,いつまでMr.Childrenのライブを楽しめるのだろう」

 

 わたしは,彼らより20歳年下のファンだから,この先Mr.Childrenがどうなっていくのかを,きっと見続けていくんだと思う。解散が怖いとか,そういうことではない。走り回って,思いっきりシャウトして,煽って,そんな今のスタイルが今後どうなるのか。また,スタイルが変わったとき,わたしは何を思うのだろう。胸に秘めているのは,たぶんそういう怖さだ。

 

 ここからが本題。Thanksgiving 25ツアーのドーム公演で,桜井がひとりギターを持ち,花道の先のステージで弾き語りを始めた。それが,「車の中でかくれてキスをしよう」だった。

 スクリーンには,2番の歌詞に出てくるプールを彷彿とさせる夜の水面。「抱きしめても すり抜けていく君の その心を 閉じ込めていたい」改めてすごい歌詞だと思う。

 圧巻だったのは2番。「震えている」の歌い方。「青ざめた くちびるの」の休符の取り方。そしてサビ前の静寂。もうこの時点でほとんどの観客が息をするのを忘れていたのではないだろうか。それほどひとりひとりの胸に切なさが迫ってきていた。

 そして畳みかけるように間奏,最終盤へと突入。CD音源が薄っぺらくて聴けなくなるほどの感情を前面に押し出したハミング。忘却の彼方へと追いやっていた過去の恋愛の扉を無理矢理こじ開けられて切ない気持ちにさせられるような,そんな力があった。

 

桜井和寿が 何かを伝えようとしている・・・」

 曲のジャンルは違うし,並べるのはお門違いなのかもしれないが,吉田拓郎さんとか,70年代のフォーク歌手みたいだ,と思った。

 いや,もちろんいつも彼は何かを伝えようと,表現しようとしているよ。それはビシビシ伝わっているし,受け取っているつもり。しかしこれだけギターの音と,声と,感情だけにこだわって何かを伝えようとしたことがあったか,ということ。わたしはここに,Mr.Childrenの次の扉を見た。もちろんしばらくはドームとスタジアム,またはアリーナでブイブイ言わせるだろうし,言わせてほしい。だけれど,もし,もしも少し元気がなくなって,今のようにパワフルなステージが展開できなくなったとしても,彼らは,音にこだわって,表現することにこだわって,伝えることにこだわって,これからもわたしたちに音楽を届けてくれるんだと確信した。きっと彼らも,音にこだわったホールツアーでその自信を得たのだろう。桜井の声も,確実に綺麗になっているという話。わたしの耳はポンコツだから,あまりわからない。

 

 Mr.Childrenは動きに頼らない表現力を手に入れた。←文字にしてみるとものすごい落ち着きのない人間みたいだな。。。

 

 

 

 難しいこと並べてしまったけれど,とにかく生の「車の中でかくれてキスをしよう」は最高でした。あとね,どう考えても10代,少なくとも20代前半までの恋愛を描いた歌なのに,47歳のおじさんがあそこまで感情込めて歌っているところにグッときたよ。「この人何考えてるんだろう・・・昔の実体験にもとづく切なさか,それとも今となってはこういう経験もできない切なさか・・・」

 ホールツアー「ヒカリノアトリエ」でも,この表現力や次の扉を感じたシーンがあったんだけど,それはまた次回。